本日の読書

パルタイ (新潮文庫) 倉橋由美子作短編「パルタイ」。先日の突然の訃報によりとみに気になったので名高いこの処女短編を処女立読みせり。なんとも摩訶不思議なり。「わたし」が「あなた」の指図にしたがうままに,嫌悪感を半ば心のそこで抱きつつも,とある,「パルタイ(=党)」というひとつの組織へと組み込まれていく「わたし」の心理の流れを,細密画のように,こと細かく,そして論理的に,こつこつと根気よく綴りつづけている文章というべきか。しかも,その文章上には,なまの感情が,ほとんど表に出てこない,ずいぶんと乾いた淡々たる記述なので,そのせいで,なんとも不思議な感触をおぼえますです。
そしておしまいの一行は,なかなか余韻の残る終わり方なので読者として気になります。けっきょく「わたし」は,この「パルタイ」という組織に,激しい嫌悪の気持ちと,そしてこれを辞める意思とを,あらわにしているという結末なのだが,そこで,もし,このストーリーが,先に続くとしたら,いったいどうなるだろうか。下記の2つがまず考えられる。
1.「わたし」は,翌日,この「パルタイ」を,きっぱり離脱する。
2.「わたし」は,嫌々ながらも,けっきょくこの「パルタイ」を続けていく。
読みようによっては,どっちともつかないように思う。文章そのものが淡々としていて,底に秘めている感情がカモフラージュされているので,その辺が読みとれないので,なおさらそう思います。
作者倉橋さんは,その文体からして,きっぱりとしたものの言い方をされるタイプのように思うので,おそらく1の方を想定されているのではと思うのですが・・・。わずか,30ページ弱のしごく短い短編なので,この機会にお読みになられて,作品に残されてる謎に思いを馳せてみてはいかがでござんしょ。
他の短編もそのうち。