本日の読書

またひょんなことから「甲州子守唄」(深沢七郎・中公文庫)発見したので即入手。これで深沢氏の中公文庫ものはみんな読んだことになる。「妖木犬山椒」「みちのくの人形たち」「いわなければよかったのに日記」等は,もう10年以上前に読了していたのだが,この「甲州子守唄」だけは,ついいままで遭遇できないでいました。中央公論社は或る意味本体が変わってしまっているし,こういったむかしの文芸作品(?)にはなかなか復刊の機はないかもしれないからこれはこれでレアな文庫本です。
小説としては,ぱっと読み通して,いかにも深沢七郎っぽいという,感じで,まあ,こんなものかな,という感じです。大正から,昭和20年代にかけての,甲州の田園地帯に住む人々のその生きとし生けるさまが,深沢七郎独特の,イナたくて親しみやすい文体で,淡々と描写されている,という感じです。
あらすじとしては,まず甲州の田舎で育った主人公”徳次郎”が,長じて,アメリカに渡り,およそ10年働いて,ふたたび甲州の地に戻ってくる。そして嫁をもらって再び渡米,また10年経って,ふたたび甲州に戻ってきて,そしてアメリカで蓄えた莫大なお金を元手に,故郷甲州に永住を決める。しかし,時代は昭和の激動期,戦争は起きる,物資は少なくなる,物価が高くなり,生活は苦しくなる。その辺の展開が波乱に富んでてけっこう緊張感があってなかなか読ませてくれます。
深沢七郎の作品て「面白いか?」と率直に訊かれると,個人的には疑問符がたくさんつきます。本質的には,読者の数はごく限られているマイナーな作家だと思います。もっとも全体を通して戦前甲州の風土色たっぷりな味わいは,深沢七郎独特の個性でもあるし,それに現在では地方でも失われてしまったさまざまな感覚がたくさんつまっているような気がします。そういったところに興味をお持ちでしたら,けっこう楽しんで読めるんじゃないかと思います。