日録

3連休中はひたすら晴天が続きました。過ごしやすかったと思います。
はじめの2日間は上京してました。熊野セミナーで知り合った東京チームとすこし交流をしてみようということで、土曜日午後は日本大学キャンパスに出かけてました。
企画の内容は、中上さんが好んで飲みにでかけられた、新宿2丁目とゴールデン街の居酒屋のママのインタビュー記録を、映画化して上映すると言うものでした。これはおそらく知られざるエピソードが発掘されると予想してましたが、まさしくその通りでした。
まず1軒目は、新宿2丁目の「アンダルシア」という居酒屋でのインタビュー映像でした。はじめは銀座で開店したかったけど、資金にめぐまれず、当時、まだ閑散としていた(おカマさんもいなかった)新宿2丁目で営業を始めたのは1966年のことで、中上さんが店に姿を現したのは、70年代の始め頃でした。まだ作家としては無名なころで、いつもTシャツ着ていて、なんだかむさくるしいトラックの運転手ということで顔を覚えていたようです。お店にはいつも1人で来られていて、とくに暴れたりもせずw、いたってふつうに飲んでいたようで、実兄の話をするときはよく涙ぐんでいたり、母親のことについては、よく思い出話をしていたりしたようです。ただ、谷崎賞で不幸に落選したときは、審査委員の丸谷さんに対して、相当毒づいていたりしたのが、思い出に残っているとのことでした。
2軒目のインタビュー映像はゴールデン街の「ガルガンチュア」でのものでした。ここでは語り継がれている武勇伝を発揮されたようです。たいてい酔っぱらってから来店することが多かったようで、落ち込んで人とも口を利かずに黙っているか、暴徒と化して暴れているか、たいへんだったようです。
3軒目のインタビュー映像は、ゴールデン街「花の木」でのものでした。ここでは朝日ジャーナルの編集者とよく飲みに来られていたようですが、ここでは打ち合わせ主体で、暴れたエピソードは無かったようです。ただ、1回だけ、「いらっしゃいませ」とふつうに中上さんを迎えたとき、なにかが中上さんの逆鱗に触れたみたいで、いきなりプラスチック製の水差しを投げつけられたことがあったそうです。なにが原因なのかはさっぱりわからないが、ともかく、それから7〜8年くらいは中上さんも来店することなく、だいぶ疎遠になってしまったようです。それでもバブルで地上げ屋がうろうろしている時期に「ゴールデン街を守ろう会」で中上さんと再会することになって、それで仲直りできたのですが、そのときの中上さんの困ったような顔がいまでも忘れられないそうです。
この「花の木」で飲んでいるときは、とくに文学的な話はせずに、もっぱらふつうに世間話をされていたそうです。それから週間誌記者もよく来店される店で、中上さんも若い記者同士の交流と活気を感じ取りに来店していたのではないかとのことでした。
4軒目もゴールデン街「BUOY(ブイ)」でのインタビュー映像。1982年頃に開店したお店で、中上さんが姿を現したのは、1986年頃のことだったようです。編集者と打ち合わせのために来店されていたようで、暴れたエピソードはまったく無かったようです。「奇蹟」、あとマンガ原作「南回帰船」の構想はこの店で生まれたとのことです。ただ、マンガ連載がいきなり打ち切られたときは、ショックだったみたいで、マスターにも「おまえもグルか」と八つ当たりをしていたこともあったとかです。それでも、中上さんという人については総じて見た目はごついけど、やさしい人という印象を抱いており、もしもいまも健在だったら、一緒にお酒を飲みたいし、「岬」「奇蹟」「讃歌」「異族」という順に、作品世界が日本を越えて、世界へどんな風にひろがっていったのか、興味はあると感じているとのことでした。
以上で、4軒ものインタビューメモを思い出してみました。「そうです」「とのことでした」と伝聞調の文末ばかり繰り返してしまいましたが、じっさいそのとおりだからしょうがないです。
それと手持ちのノートには個人名に至るまでいろいろメモしていますが、もちろんブログ上では伏せることにします。あと、ウェブ上にアップするのに迷うきわどいエピソードは、思い切って省きました。なのでかなり中途半端なエントリーですが、まあ、そんなに人に読まれないでしょうから心配はしていません。
というわけで、この上映会、なかなか生々しくて、中上さんの人間くささと知られざる逸話がもりだくさんで、楽しく、あっと言う間に3時間過ぎてしまいました。
インタビューを淡々と連ねるだけで、1編の立派な記録映画ができてしまうということ、さすが中上さんだなと思います。
映像放映が終わった後は、すぐ近くの居酒屋「きちんと」で宴会です。熊野のセミナーで知り合った顔ぶれとも多く再会できたし、あと、集英社の方も取材に来られていたりで、文学的な活動も、なかなかどうして根が深く地道に続いているものだなと思ったりもしました。
1次会がはけた後は、ゆかりの地めぐりということで、ゴールデン街にくり出したようですが、自分は辞退して早々にホテルに戻りました。人数も多かったので、店舗が狭いゴールデン街では不自由することも多いのではと思ったので、むしろ若いご参加者にチャンスを譲ると言うことで、帰ることにしました。じっさい二次会でウィスキー飲みながら深夜までがんばるのはそんなに得意ではないので、これはこれで正解だったかなと思います。
というわけで、いろんな意味で濃かった土曜日は終了になりました。普段の日常では語り合えない中上さんの件を肴に、いろいろ雑談するのは気分がいいです。
翌日曜日は、あっさりしたもので、午前中は神保町をかるく散策してから、午後には新幹線に乗って、愛知に戻ってきてしまいました。事前に入れているイベントもなかったので、いたしかたないところですね。
連休3日目最終日は、いたって淡々と休養に徹していました。こうしているうちに、オフィスでの某宿題が終わっていない件が気がかりで、少しずつじりじりと想念に重しをかけてくるのですが、まあ、それは明日火曜日にならないと手をつけられないので、今夜はたっぷり寝て、オフィスに備えます。それではおやすみなさいませ。