本日の読書

A 「乳房よ永遠なれ−薄幸の歌人−(若月彰著,第二書房)」
B 「冬の花火渡辺淳一著,角川文庫)」 
冬の花火 (集英社文庫)
たまたま帯広ゆかりの歌人中城ふみ子*1さんについてとみに知りたくなり,帯広市図書館閲覧室の椅子に座りつつ,上記の2冊読む。共々文体平易にして読み易く一気に読了せり。
Aは歌人逝去後わずか一年にして,病床歌人を看取った著者による手で執筆され,昭和30年にその初版が刷られし書*2なり。短い執筆期間ながらも,その記述は至極冷静で,わかりやすくまとまっている。当時の歌壇がこの歌人をいかに受容したか,そしてその歌人の人となり,死を間近に控えての病室での光景,そして歌人の残した短歌について逐一著者なりの歌論をも交えつつ,しっかりと整理されて綴られている。
Bは歌人没後20年を経て執筆されたもので,その歌人の生い立ち,結婚及び離婚,地元帯広での屈託の多い私生活,そして地元帯広での歌会参加をとおしての私的な交流及び短歌創作に目覚めること,しかしまもなく乳癌発病すること,札幌に移り闘病生活すること*3,とつぜん中井英夫の讃により歌壇にて全国区になること,しかし癌は悪化する一方でそのわずか4ヶ月後に逝去すること,に至るまでの,その悲劇的でドラマティックな人生の道筋が,Aが書かれた時点では得られなかったであろう,客観的な資料と視点を基にして,これまた冷静に綴られている。
以下,単なるメモ。Bは,
○ごくまっとうな歌人中城ふみ子伝記といったところ。読んでみて,この薄幸なる歌人に対して,率直で真摯なオマージュを捧げてます。その内容は,悲劇的,感動的で,ざっと読んでて打たれます。泣けます。
帯広市についての地誌的記述については,細かく丁寧に,その番地名に至るまで詳細に記述されている。したがって中城ふみ子ゆかりの地とは,この帯広市内の何処なのかは,この「冬の花火」のなかでかなり明快に記されており,この本片手に帯広市内を歩くならば,ちょっとした中城ふみ子文学散歩が出来そうなくらいです。多分,著者も,帯広市内をじっくりと散策しつつ,取材して執筆されたのではないかと思います。
○しかしながら,Bを貫くトーンは,歌人中城ふみ子と,その死に至るまで関わってきた男性らとの”遍歴”という一本の太い筋がある。すなわち,最初の良人から,その死直前に病床で面会することになる中井英夫に至るまでの,ドラマティックな”男性遍歴”が,この小説を最初から最後まで綴る柱となっていること。この辺が,渡辺淳一さんらしいと言ったところでせうか。
○それでも,性描写等はごくごく控えめ。もちろん実在の歌人中城ふみ子に「すごおい」などとは言わせていません。ごくまっとうな伝記で終始してます。
○しかし,なにはともあれ,如上の,この「冬の花火」では,ごくまっとうな文体をお持ちなのに,なぜに,近年の”愛ルケ”では,性描写一本槍な世界になってしまうのだろうか。この辺は,謎ですね。

*1:せっかくなので,キーワード化してみました。説明文は,とりあえずごく無難に記載。あとで付け足したいことが出てきたらまた書くつもりであります。

*2:図書館架蔵書奥付によると,第一刷昭和30年4月20日2000部,第2刷昭和30年5月31日1000部,第3刷6月30日1000部,とあり。 ちなみに,ここで読んだのは第3刷。

*3:著者の回想によると,ご自身,その当時札幌医大医学生として在学中で,病棟にて,歌人と物理的なニアミスもされていたとのこと。そしてそれが後に「冬の花火」執筆の契機にもなったとのこと。