塩狩峠行幸

今朝方,ついふらふらと旭川方面を行幸仕りたくなり,思わずお布団から飛び出して,ひたすら北上しました。さういへば,三浦綾子さんの小説のうち今のところ唯一読んだことのある「塩狩峠」の舞台って,このへんだったかな〜,と思いながら車のハンドルを握って走行しているうちに,気がついたら到着してました。
このバス停”塩狩”の右脇手前から,細い小路が分かれていて,鬱蒼とした林の中へとつづいていってます。
そこから徒歩にて,てくてく歩いて100m位行くと,ゆるやかな坂道がまた100mくらい続いているので,それをのぼりつめたところの,小高い丘の上に,三浦綾子さんの旧宅が建ってます。ここで雑貨屋を営みながら,夜には万年筆を執って,こつこつと「氷点」「塩狩峠」「道ありき」等の名作を生み出していたとのこと。こんな感じで建ってます。

もっと近づいてみるとこんな感じ。

もともとは,雑貨屋「三浦商店」を営むために,昭和36年に旭川市内に建てられたものとのこと,平成5年に老朽化のために解体したものの,名作を産んだ家屋として,解体を惜しむ声があり,記念館として保存を決定,そして平成11年にこの塩狩峠の小高い丘の上に再構築し,記念館として運営されることになったとのことです。
この,小高い丘の上に,ひっそりと建っているというのは,ミソですね。もともとは旭川市内の一般家屋だったに過ぎないはずなのに,これが小高い丘の上に建ってると,なにかしら,教会へ祈りに行くときのように,厳粛な気分を誘います。手前の細い小路をゆっくりと登り歩いているうちに,いやがうえにも三浦文学ファンとしての,巡礼気分を高めてくれます高めてくれます。ありがたやありがたや。
といっても,もともと,この家が建てられた当時は,三浦さんご自身もキリスト教への帰依を,よりいっそう深めていきたいという意図もあったそうです。そのことが,この家屋に,よりいっそうの敬虔な雰囲気を付与しているのかもしれませんね。
ちなみに,この家屋の前には小さな掲示板あり。読むと,「一粒の麦 もし地に落ちて死なずば 唯一つにて在らん もし 死なば 多くの果を結ぶべし」と三浦光世氏による書の掲示あり。真摯なメッセージに,思わず襟を正します。やっぱり,聖地だよ,ここは。
というわけで,いよいよ家屋内見物することにしましたが,しかし,家屋の中は,あいにく”カメラご遠慮ください”との事なので,何も撮影していません。
家屋内はけっこう広いです。学校の教室が3個ぐらい収まるくらいのスペースはあるのではないかと。
ドアを開けるとすぐ手前は,まず,土間。すぐそこに受付,及び当時の雑貨店を営んでいた当時の光景の再現,えんぴつ,ノート,消しゴム,その他駄菓子等のダミー展示あり。
靴脱ぎ場で靴を脱いで,この土間から,一段上がると,三浦さんが「氷点」「塩狩峠」を執筆されていた当時の間取りと調度品が並べられていて,当時のつましい地味な生活のなかながらも,すぐれた作品が生み出されていったときの臨場感と生活感がそのまま伝わってくるかのようなスペースです。
「氷点」入選報を受けたときの事務用机と,黒電話が,展示品として鎮座せり。その机の上にはプレートあり,「展示品に付き,座らないでください」とのこと,触ってもいいけど,座ったらだめよ,という意味なのかな? 安心してください,机は書き物をする場所であって,座る場所ではないことぐらい理解しております。小学校の頃,みっちり仕込まれまそた。
階段を昇って,二階に上がると,「氷点」「塩狩峠」を執筆されていた当時の書斎が再現されています。書斎といっても,ただの6畳間です。座布団とちゃぶ台と小さな書棚があるだけです。この書斎では,「塩狩峠」執筆当時から,三浦夫妻で始められた”口述筆記”というものに,来館者も挑戦することが出来ます。MDレコーダーに録音された三浦綾子さんの肉声に併せて,ちゃぶ台の上に載せられた原稿用紙に一字一字書き込んでいくというものなのだが,これをペンで追って書こうにも,三浦綾子さんの肉声って,速いです。口述筆記ということで,いささか気を使って,文節ごとに息を区切ってはいるというものの,やはり,速いです。まるで朗読です。それも,「塩狩峠」の有名な,信夫が,身を挺して,客車の暴走を止める場面を読んでいるのです。三浦さんの一途で,生真面目なご発声による口述で,このシーンに耳を傾けて聴いていると,筆記するものなにも,むしろ泣けてしまって,沈黙してしまいました。
まあ,そうこうして,三浦綾子さんの旧宅を上記のとおり満喫してから,すぐ傍の,塩狩駅構内を散策しました。

閑散とした無人駅です。墨で大書された「塩狩駅」表示が明治の開拓期以来の年季を感じさせます。

ホームの南端に立って,線路の先を見遣ると,心もち左側へ大きく孤を描いて,そして遥か先へと続いていってるかのようです。思わず新潮文庫塩狩峠」の表紙図柄を連想してしまうのは,自分だけでは無いかも,しれません。

塩狩峠 (新潮文庫)

塩狩峠 (新潮文庫)

以上。
その後旭川市内を自転車にて散策,駅前から郊外までいろいろ,20kmぐらい自転車で走ってたかも。
夏期休暇最後の日は,いい運動で終えることができまそた。