ダザイハウスにて

13日ということで何の日かなと思ってたら、そうだ、あの人がどぼんをされた日だなと気が付きました。いきなり縁起でもないわけですが、いや、もしかしたら、特別な日だから、ということで、何かしらイベントで賑わっているかもしれないな、と思ったので、津軽の金木に行ってきました。
結局、何もありませんでした。静かな田舎町の趣きでした。今日は忌の日ということで慎むべき日だったのかもしれません。
だけど、来週19日20日は生誕100周年ジャスト、ということで、イベントが目白押しみたいです。お時間のとれる方は遊びに行きましょう。

言わずと知れた斜陽館です。生誕百周年の垂れ幕がでかでかと掲げられています。
内装は改築されていてきれいさっぱりしてました。一階も二階も全部立ち入りできるようになっていたのは驚きです。たしか、以前は旅館だったので、2階とかは宿泊客でないと入れなかったと思います。イメージがぜんぜん変わりました。すごい新鮮な気持ちで、屋内を眺め歩くことができました。
今回展示物を眺めてみて、ふと思ったことですが、彼の実兄にあたる津島文治さんって、すごい人ですね。この津島家は、大地主だったわけですが、明治から大正にかけて、どんどん没落してしまうわけで、そして大戦後にはGHQが「地主」そのものを解体してしまうわけでしょう。まさに波瀾万丈な歴史を辿ったわけですが、それでも文治さんは早稲田大学を卒業されて実務家としてそして政治家として、地元の期待を一身に背負って生涯を全うされているわけです。だから「津島家」といえば、いまだにこの地方の名士ということで、通っているわけです。そういう意味では「修治さん」とは全く対照的なので驚かされます。
だけど、二人とも激動の時代の落とし子であって、その変化の多い空気の中で「完全燃焼」されたのであって、それが「実務」と「文業」という、このような全く異なった方向性で答えを導き出そうとしただけなのではないか、と思うと、妙に納得できるものもあります。

これは「太宰治疎開の家」です。上記斜陽館から東へ190mくらい離れた場所にあります。これは「私有物」ですが、家主に連絡をして案内料を払えば、中を案内してもらえます。ここまで来たんだから、さっそく案内を乞うことにしました。
大正11年の小さな平屋建築で、建築コストは当時の貨幣で4万円だったそうです。ちなみに本館斜陽館も4万円だったそうです。明治と大正とでは物価がかなり異なるようです。
東京の戦禍から逃れて身を寄せた家ということで、彼が執筆作業をした、という意味では日本唯一の遺構らしいです。私有地だったにも関わらず、半世紀も残っていたというのはすごいです。表の斜陽館みたいに、「いかにも豪勢な」建築なら壊すのは誰でもためらいますが、こっちの離れ屋敷は、見た目なんの変哲もない古屋敷ですから、家主の気分次第で建替えのチャンスもたくさんあったとは思います。ところがそうはならなかった。奇跡です。
それだけに、当時の光景がなまなましく残っているようで、ここはかなり面白いです。

作家の当時の書斎実物です。この畳み部屋で「パンドラの匣*1」とか「親友交歓*2」とかが産み出されたらしいです。
ちなみに、ガイドさんによると、ここで執筆された作品は、ユーモアたっぷりで、明るい作品が多いそうです。戦禍に見舞われていたとはいえ、実家でくつろいでいて、良いものを食べていて、安定した精神生活を過ごしていたことが窺えるみたいです。「帰去来*3」「故郷」「薄明*4」「庭*5」等に、この家での生活の様子が生々しく窺えるそうです。
ガイドさんも、年頃の時は太宰文学なんかまったく感心も無くて、読みもしなかったそうで、いい歳になってから初めて作品を読み親しまれたそうですが、それで読んでいるうちに、自分の家の構造と作品の中身とがぴったりリンクしていることに驚いたそうです。そして太宰は「暗い」云々ではなくて、「明るくて」「ユーモアたっぷり」な作品の方に本領があるのではないか、とも思ったそうです。これは同感です。自分も年頃の頃は読んだことまったくなくて、社会人になっていい中年になってから読みましたが、ユーモア感覚は秀逸ですごいと思います。読む年齢とかには関係なく親しめる作品も相当多いのではないかと思います。
詳しいことは、太宰屋のホームページ*6にも載っていますので、そちらをどうぞです。ここはかなり面白いスポットです。

これは応接間です。ここで編集者とかファンとかをもてなししたようです。おそらく東京からわざわざおいででしょうから、当時の交通事情を考えてみれば、気が遠くなるような話です。写っている人物は、なんと、わたしです。

順路をひとめぐりしてだいぶお腹が空いたので、レストランで太宰ラーメンをいただきました。若竹と若昆布が彼の好物だったことにヒントを得て考案されたメニューだそうです。かつおだしのスープと相性がいいです。

なんですか、DazaiCafeって。すぐそばにありました。