本日の読書

火星縦断 (ハヤカワ文庫SF)「火星縦断(ジェフリー・A.ランディス著ハヤカワ文庫)」この土日一気に読む。☆☆☆☆☆です,傑作です。ひさびさですこんなに夢中になって読んだSFは。
主だったすじがきは,アメリカの5名(男3女2)の宇宙飛行士が,調査のために火星赤道付近に着陸。しかし機材故障のため,帰りのロケットが使えなくなってしまった。救助部隊が来るまでには2年もかかる。まったくあてにならない。なんとか自力での帰還方法を探らなくては。すると,数年前に,ブラジルの宇宙飛行士2名が,北極付近に,帰還用ロケットを放置したまま,行方不明になってしまっている,という情報を得る。だとすれば,その帰還用ロケットが,もし使えるなら,地球に再び戻ることが出来るのでは。・・・ということで,5名の宇宙飛行士は,バイクにまたがって,火星の北極点を目指して,荒涼たる火星地表上を走行し,”火星縦断”を試みる,という設定です。
しかしながら,地球から持ってきた器材(バイク,気密服)は,このような長距離長期間にわたる探検用としては,設計されていないので,当然故障が起きる。とくに二酸化炭素ばっかりの火星の大気中では,生命維持装置(気密服)にトラブルが生じると,命取りになるわけです。酸素の供給が断たれて,死にかけたりするシーンの描写など,さもありなんという気がします(この,生命維持装置について,詳細に書き込んでいるのもこのSFの特徴)。
宇宙飛行士5名の出自が多岐にわたっているのも,アメリカらしい(白人2名,黒人1名,タイ出身1名,ブラジル出身1名)。そして,章を入れ替えして,火星地表での探検シーンと,地球上での過去の記憶のシーンをとっかえひっかえしながら,この5名それぞれの生い立ちと,そして苦労して宇宙飛行士に成るまでの来歴が詳細に語られるのも,人物描写に深みを与えていて読ませます。
火星の荒涼たる光景の描写もすばらしいの一言。鉱物用語を自在に使った文体で,宮澤賢治が,もしこの21世紀に生きていたら,こんなふうな世界をも描き出すんじゃないのかなあ,という気がします。
ほんとにアメリカの知性による作品だなという感です。ただし,4〜5年たったら,内容は古くなってしまいそうな予感もします。人物描写は古びないとは思うのですが,科学的な描写が古びてしまいそうな予感がします。とくに,世間一般の,火星についての科学知識が,年々深まっていけばいくほど,この小説は,過去のものになってしまうと思う。もっとも,SFとはそういうものでしょうから,だから,読むなら今のうちにどうぞです。
おすすめ作です。はてな内にも感想文がいっぱい出てきます。