本日の読書

本の感想文は,やはりはてなのほうが居心地いいです。なんといっても,同じ本を読んだもの同士が,リンクでつながってくれるのが,醍醐味です。
謝々!宮沢賢治 (朝日文庫)「謝々!宮澤賢治(王敏著,朝日文庫)」 1日で読めるかと思ったが,なかなか重たい内容で,読み通すのに3日かかってしまいました。
著者は,文化大革命時に,日本語と日本文学を学ぶ機会に遭遇したのだが,しかし,当時の中国は海外からの文化流入が”統制”されていて,その少ない情報の中から,日本を学ばざるを得なかったこと。その少ない隙間の中から,”賢治”という不思議な存在に奇跡的にめぐり合えた経緯。
そして,その賢治の作品が,日本の地域的な文化的土壌に根ざしていながらも,それでいて,人生にとって普遍的な真実を描き尽くしていること,そしてそのことが賢治を生んだ日本への憧憬を深めさせたこと。
そして,本文中で,賢治の作品が探求してきた世界と,中国古来の老荘思想の世界とを,作品をあちこち引用しながら対比することで,中国の古代賢人が生んだ文化が,はるか東のこの日本で,脈々と受け継がれていて,そしてそれが,宮澤賢治の作品の中でも,ひとつのエッセンスとして生き続けていることを,巧みに明らかにしてくれます。
むしろ,著者によると,現代中国の本土よりも,日本の方が,古代中国のエッセンスが,より多く生き残っているそうで,著者としては,日本での留学生活は,この発見がおどろきの連続だったみたいです。そうなんだ〜。

中年以上の日本人は,漢詩や古典に描かれた中国像を大切にしている。この人たちにとって,「中国人」像は,漢詩の世界にある。漢詩が好きな人ほど,現代中国人を見誤っている。
じつは,現在の中国人は,古典と伝統文化を習う機会が非常に少ない。とくに「文革青年」は学校教育が中断したため,古典・漢文に関する知識は,日本の高校生以下だ。それえで,日中間でも「古典」理解のギャップが歴然,ついには誤解が生まれてしまっている。・・・中国でいまはなくなっているか,なくなりかけている伝統が,日本人によって忠実に守られている・・・<習慣>年末・年始の挨拶,<礼儀作法>正座,<祭祀>七夕祭,<おけいこ>算盤,<衣飾>簪,<飲食>抹茶,<寝具>細長い枕,<書式>縦書き,<文字>古代漢字

現実問題として,たしかに,日本では,生きつづけている文化ではありますねえ。むかしほどの勢いは無いにしても。
なるほど〜,”年末・年始の挨拶”って,中国では,なくなりかけているのが現状なんだ〜
それと,おしまいの章の「作品解読」のくだりで,「雪渡り」「北守将軍と三人の医者」があげられており,そこで中国の漢詩文の美学との,類似点がたくさんある,ということについての指摘も,なかなか興味深く,読めた。

賢治とその時代の日本人は,古代中国を大切にした教育を受け,漢文の知識と教養を持っていた。とくに文学を好む賢治は,仏教に通じていたので,それらの経典から,漢文や中国文化の教養及びそこに描かれている人間の心情を学んだと言えよう。そのうえ,賢治の蔵書のリストには「漢文大系」「唐詩選」など数十冊の中国の書物がある。・・・李白杜甫に学んでエッセンスを取り入れ,作品を充実させた,と見るのも納得できないことではなかろう。

この論考に触発されて,この二作品,思わず,イーハトーブ*1で,じっくりと耽読してしまいました*2
とくに,「北守将軍・・」って,人間の,”生”と”死”の諸相を,童話形式でありながらも,ずいぶんと,なまなましくも描いてくれている作品なんですね。驚きました。
賢治さんって,短命ながら,いまの人とは比べ物にならないくらい,すごい濃い時間を生きた人なんだなあと改めて思います。

*1:http://nagoya.cool.ne.jp/ksc001/

*2:青空文庫でも読めるけど,”イーハトーブ”の方が,「縦書き」なんで,お勧めです^^