安吾忌報告

2月17日18時30分より都内の「如水会館*1」2階オリオンルームにて開催。会場奥に安吾の巨大な肖像写真と,その脇に,控えめな大きさの三千代夫人の肖像写真展示。これは5年前に参加したときと同じ。その脇の長テーブルの上に,「吹雪物語」「白痴」等々著作初版本が30冊くらい展示されて並んでました。
参加人数は,名簿によると75名。これだけの数の安吾ファンが,ひとつの会場に集うこと,これだけでぜんぜん”非日常”でございます。
いよいよ開催時間。
まず,篠田昭新潟市長から「安吾賞」創設についての報告ひとつ*2新潟市が,近隣の市町村との合併記念としての事業として,なにがいいか募ってみたところ,安吾賞”がいいのではないかという案が出たとのこと。当時の審査委員長の新井満さんが,この提案がいいのではないかということで,採用にいたったとのこと。
これは,文学賞ではないとのこと。著作物だけではなく,さまざまな社会活動を通して,”安吾精神”を全国に発信しているであろうと思われる者を,選考して,新潟市から賞を差し上げましょう,という趣旨だそうです。来年秋には受賞者が決定されるとのこと。
安吾といえば,敗戦直後の昭和21年,荒廃した,空虚な日本の世相のなかで,「堕落論」を発表し,当時の日本人に勇気を与えた人物ということで歴史上に名を残しておられるわけですが,そうして産み出された”安吾精神”を,いま,この,物質的には豊かになった,平成の時代に体現している人物は,いったいどなたか,どんな方が受賞することになるのか,いまから大いに楽しみです。たとえ,反権力的なタイプの人間だとしても,その活躍が,人々に勇気を与えてくれているなら,おおいに賞の対象になるとのことです。というのも,新潟はむかしから反権力的かつ偉大な人間をも輩出している地だからということも大いに関係しているからとのこと。
かなり,型破りな賞になりそうです。
引き続いて,”安吾賞”選考委員のひとりでもある作家の新井満さん*3によるスピーチと,”安吾賞”創設宣言発表でした。
安吾とは,どんな存在か,というテーマからスピーチ開始。戦後,日本人が,絶望のどんぞこにあえいでいたときに,勇気を与えてくれた人物,それが安吾だったとのこと。その安吾堕落論を発表したのは,1946年だが,その前年,GHQのマッカーサーが,とあるポエムを日本に持参していたのだが,このポエムの内容が,これがまた,きわめて”堕落論的”だとのことで,これを朗読するのが,この場に相応しいのではないかということ。もっとも,ただ朗読するだけではつまらないということなので,自ら作曲された音楽も添えて,厳かに厳かに朗読されました。会場隅のスピーカーから,ピアノ伴奏による静かなメロディがスピーカーから流れ出しました。それに併せてご朗読。

青春とは 真の青春とは 若き 肉体にあるのではなくて 若き 精神のなかにこそ ある 
ばら色の頬 真っ赤な唇 しなやかな身体 そういうものは たいした問題ではない 問題にすべきは強い意志 豊かな想像力 燃え上がる情熱 そういうものがあるか ないか こんこんと湧き出る泉のように あなたの精神は 今日も新鮮だろうか いきいきしているだろうか 臆病な精神のなかに 青春はない 大いなる愛のために発揮される勇気と冒険心のなかに青春はある 臆病な二十歳はすでにして老人 勇気ある六十歳にこそ青春はある ただ歳を重ねただけで人は老いない 夢を失ったとき はじめて老いる 青春とは 
真の青春とは 若き 肉体にあるのではなくて 若き 精神のなかにこそ ある

そして,このポエムの内容のように,われわれに夢を与えてくれる,チャレンジャーにこそ,”安吾賞”が相応しいと思いますとのことで,ことばを結ばれました。
そして,いよいよ宣言文が読み上げられました。

坂口安吾が産まれ,青春の思索を育んだ地である新潟市から,世俗の権威にとらわれず,本質を提示し,反骨と,あくなき挑戦者たましいを発揮する現代の安吾に光を当てたい。日本人に大いなる勇気と,元気を与え,明日への指針を指し示すことで,現代の世相に喝を入れる,人物や団体に,安吾賞を送ることを,ここに宣言します。

とのことでした。満場拍手。
この安吾賞創設宣言アピールが,この安吾忌におけるいちばん重要なイベントだったのではないかと思います。みなさんが酔っ払ってしまう前に,冒頭に持ってきたのは,おそらくそのためではないかと思います。
ひきつづいて,若月忠信さん*4によるスピーチ。各界の著名人の名を引き合いに出しつつ,”安吾精神”の持ち主とはなにかについて,若月さんなりの,考察及びスピーチでした。具体的な人名はここにはアップしづらいところなのですが,おおむね,いわゆる”オンリー・ワン”な個性で活躍をされている芸能人の名をいっぱい挙げられたりしていて,なかなか楽しめるスピーチでした。
そして若月さんの掛け声で献杯! 各人グラスをぶつけ合ってしばし歓談。バイキング形式で美味なる食事が提供され,各々自由に皿によそってはぱくぱく食べてました。
宴たけなわ。しばらくしてから,吉岡龍見さん(尺八)と中村ヨシミツさん(クラシックギター)による,共演披露。サティ「ジムノペディ」等を披露。尺八とギターによるジムノペディってとっても不思議な味わい。
もうこの時点で,会場のみなさんもおおむねアルコールがまわってしまっている状態で,演奏中にもかかわらず,わいわい楽しく雑談モードで盛り上がっている状態もあって,それがまた,ほのぼのとした良いムードを醸し出してくれてましたように思います。
そして,手塚眞さんによるスピーチ。製作中の映画についての抱負等を語ってくれました。
ひきつづいて,関井光男さんによるスピーチ。安吾にまつわる思い出話をいろいろ語っておられました。
そして,この二人の,偉大なる,クリエイターのあとに,いったいぜんたいなんということでしょう,この,saitohswebpageに,スピーチの番が回ってきました。
大体2分くらいのスピーチにして欲しいとのこと,安吾について考えていることを自由に語って欲しいとのことで,いきなり安吾忌事務局から話がきましたのです。
おい,この素人に,話すことなんかないよう。頭が真っ白になりました。
でも,なんとかなるものです。自分がsaitohswebpageという変な名義で,安吾とインターネットを媒介としたメーリングリスト*5を主宰していたことの経緯についてと,そして高校生のころ,ちくま文庫から毎月刊行された坂口安吾全集をすこしづつ楽しみに読んだということと,そしてそれが,この安吾忌に参加するきっかけになって,自分でもこの運命にびっくりしているということ。それと最後に,インターネット上の安吾ファンは,いささかおとなしいのではないか,今年はなんといっても生誕百周年にあたるのだから,とくに東京都内では,安吾関係のイベントはたくさんあるはずなのだから,そのイベントを,ひとつの契機として,インターネット上にどしどしコメントをアップして欲しい,地方にすんでいる人間は,そういう情報を心待ちにしています,ということを,アルコールの勢いにまかせてまくし立てたような気がします*6
それでも,緊張のあまり早口になってしまって,聞き取りにくかったのではないかと思います。すいません。だけど,暖かい拍手をいただけまして感謝しております。
それやこれやで,おおむね2分くらいは,つぶれてくれたかのような感がします。
それよりも,生誕百周年にあたる年に,安吾忌でスピーチやってしまったぞ。自分。これは生涯の光栄になりそうです。ありがとうございました。これにこりずに,またこういう新たな試みを敢行して,安吾忌にメリハリをつけてくださいませ。>安吾忌事務局さま
安吾忌事務局”のみなさんが,まず,”安吾精神”の持ち主であることは,まず間違いありません。
ひきつづいて,”安吾カルトクイズ”開始。キムラさん司会で,総数10問もの,あまりにもむずかしすぎる問題が読み上げられました。
5問しか正解できませんでした。坂口安吾考案の”安吾服”の形状なんか,知らないです。その正解は,おなかのまんなかに巨大なポケットひとつあしらった,ドラえもんタイプのものだったそうですが,どこの文献から,ピックアップしてきたのかさっぱり検討がつきません。
それでも,最高正解者は,9問当ててましたね。凄すぎです。知ってる人は知ってます。それがカルトクイズたる所以なのでしょう。
というわけで,カルトクイズでは,賞品なにひとつゲット出来ずでした。残念無念。
そうして,酔っ払ってしまってぐでんぐでんになっているうちに,時間はまったりと過ぎていきました。
この間に,ネット上で,かねてよりハンドルネームだけ既知状態だった,数々の方と歓談できました。
まえもって,メーリングリストとブログでコメント読んでいただいていると,会話って,しやすいものですね。ネットの力というものに感謝です。
そうこうしていうちに,しんがりに,綱男さんのスピーチで〆。2月初日に正式公開された坂口安吾デジタルミュージアム*7についての言及も。こうして安吾忌本会は無事終了でした。
ひきつづいて,如水会館すぐそばの某居酒屋で二次会突入。この二次会では,あまりの泥酔に,記憶が朦朧としていて,なにを話したのかはあまり覚えていないのですが,二つのマス席の間をふらふら往復しながら,あちこちのみなさんにからんだような気がします。見境なく騒いだりはしませんでしたが,けっこう迷惑に思われてたら申し訳ありません。
二次会が終わって,投宿先に到着すると,時計はすでに12時を過ぎておりました。そのまま倒れるように爆睡。翌朝は二日酔いでうんうんうなっておりました。
みなさま,おつかれさまでした。また,いつか,忌でお会いいたしましょう。

*1:http://www.kaikan.co.jp/josui/

*2:http://www.niigata-nippo.co.jp/news/index.asp?id=2006021730577

*3:http://www.twin.ne.jp/~m_nacht/

*4:http://www.hanga-cobo.jp/wakatuki/

*5:http://www.angoml.com/

*6:ていうか,スピーチの順番待ちしている最中に,緊張を紛らすために,コップ酒を次から次へとがぶがぶと注ぎ込んでしまって,それからあとが大変だったのはいうまでも無い。

*7:http://www.ango-museum.jp/