本日の読書

破天 (光文社新書)山際素男著)」曇天時々小雨。ブクオフで分厚い新書本をめっけたので買って読んでみる。600ページもの大著なので、全部読み終えるまで3日かかりました。佐々井上人については寡聞にして知りませんでした。しかもインド国内へ単身飛び込んでカースト撤廃と仏教の復興をされているとのことで、すでに一億人以上もの信者がいるらしい。宗教の教義云々はおいといて、その事実はすごいことだなと思う。しかもあの人口密度が濃くて、価値観やら権益やらが入り乱れていそうな国で。
ノンフィクションだが、文体はかなり小説的な書き方をされているなと思います。読んでて面白いです。子供の頃から煩悩が多くて、いろいろ苦労して、寺で住み込みしたり、浪曲師になったり、占い師になったり、仏教大学の聴講生になったりして、仏道をひたすら学び、それが幸い認められて、ついには仏教本場の、タイにまで留学できるようになる。タイでの滞在中に、ある日、夢の中に「竜樹様」が現れる。竜樹様がいうには「汝、速やかに南天竜宮城に行け」。その夢のインパクトがあまりに強かったので、目覚めてから、いったい何のことだろうと調べていると、どうやらその南天なんとかいうのは、インドにあるみたいだ、と推定する。そこでインド行きを決心してしまう。そしてインドに着いてから、アーベンドカル(カースト撤廃と仏教復興をインドで始めた人。当時すでに故人)のことを知る。そのアーベンドカルの肖像写真を眺めてると、かの夢の中の「竜樹様」そっくりだったことに気がつく。そこで、あ、自分はこのアーベンドカル様に呼ばれて、インドに来たんだ、と結論付ける。そこから、インド国内での命がけな仏教復興運動を始めるというわけです。どこまでほんとうなのかわからない世界ですが、説得力あります。そういった不思議なエピソードをたくさん挟み込みながら叙述を進めて行く所が、小説的だなと思いました。
とはいえ、大菩提寺仏教徒の手に取り戻そうとひたすら運動するくだりはすごいです。なにか壁にぶつかるたびに何度も断食を繰り返して、その真摯さをアピールする。断食は命がけの荒行ですので、周囲は心配する。佐々井上人をこのことで死なせてはならない。なんとか私たち仏教徒の訴えを聴いてもらえないかということで、グループの結束力はますます高くなる。断食が心と心の結束を生む。これがインドなんだろなと思う。これほどのことをインド国外からやってきた一日本人僧が取り組んでいるということがおどろきました。
いろいろネットで調べていると、2004年ごろにフジテレビで特集が放送されていたみたいです。そういうのをそのつど視聴していないから知らなかったわけです。とはいえ、こういうスケールのでかい人が、この日本ではなかなか知られないのは、やはり「宗教」が絡んでいるからだろうと思う。宗教が絡むといろいろめんどくさいからつい距離をおいて言論してしまいますから。だけど、当時の放送を記録したレンタルDVDがどこかにあるなら見てみたいです。