ほめことばに対するアンチテーゼ

プーシキン伝 (1974年)池田健太郎著中公文庫上下)」読みながらメモ。

詩人よ、人の世の愛を受けたとて心を許すな。もえさかる称えの声も、束の間のざわめきのごとく過ぎて行こう。やがて耳に入ろう、愚者の裁きが、衆愚の笑いが。しかし詩人よ、こころ堅固に、安らかに、眉根ひそめてあれ。おんみは帝王なれば、ただひとり世に生きて行け。自由な道をたどり、自由な知恵のみちびくままに、ひとり歩いて行け。おのれのいつくしむ思念の果実を設けたとて、その気高い仕事の報いを世に求めるな。そうではないか詩人よ、仕事の報いは御身自身のなかにあるのだ。おんみ自身が世にならびなき審判人。おんみひとりだけが誰よりも厳しく、おのが仕事の値打ちを知り得よう。情容赦無い芸術家よ、おのが仕事に。満足なのだな? それならば、詩人よ、衆愚の罵るにまかせよ、おんみの灯のともる祭壇につばはくにまかせよ、供物台をわんぱくな子供のごとくゆすぶるにまかせよ。・・・プーシキン「詩人に」

19世紀前半期露国の賢人侮りがたし。