本日の読書

シャドウ・ダイバー 深海に眠るUボートの謎を解き明かした男たちシャドウ・ダイバー−深海に眠るUボートの謎を解き明かした男たち−(ロバート・カーソン著,早川書房)」 秀逸なノンフィクション。1991年,アメリカのニュージャージー沖の,水深70mの深さに,Uボートらしきものが沈んでいたのを発見される。その沈船の中に潜って拾い上げた遺物とかをもとに,当時のドイツ海軍の記録等を照らし合わせてみたところ,その艦名は,おそらく”U-869号”ではないか,という推測にいたるわけなのですが,しかし,その”決定的な”物的証拠が,なかなか見当たらない。それで,ダイバーたちは,何度も命がけな潜水を繰り返し,その物的な証拠を求めて,艦内をさまようことになる。
しかしながら,その,艦名を特定したところで,何というお宝が得られるわけでもない。ただ,ドイツ海軍の戦史の一部分が,埋められるだけに過ぎないわけで,しかし,それでも,艦名を特定せずにはいられない,そこに男のロマン,というか,男の妄執の不思議さを感じずにはいられない本です。
それに,水深70mもの,海底に横たわる沈船へのダイビングは,まさに命がけです。潜水艦内というのは,ただでさえ狭いのに,しかも海中で半世紀も放置されたおかげで,あちこちさび付いているわけで,いつぶっ壊れるかわからないわけです。たとえば,すぐそばの鉄材が倒れてきただけで,水中はあっという間ににごってしまい,視界ゼロになってしまって,すぐに,出口がわからなってします。それでパニックになってしまったらイチコロです。たとえその危機を脱しても,エア切れ直前で,海面に浮上しようものなら,血中のエアが膨らんで,減圧症になってしまうわけで,おそろしいことこの上ありません。
そういった,レックダイビングの怖さというものも,ことこまかに,よく調べに調べて具体的に書いてくれてる本です。とくに水中事故の描写がなまなましくて,読んでて背筋が寒くなります。この”U-869”という艦名を特定しうるまで,4名のダイバーの命が奪われています。そして,その痛々しいエピソードの,すべてが,こと細かに読者の目の前に提示されます。それら水中での描写が,いかにも危険すぎて,読むのが辛くなってくる本でした。
ちなみにあとがきで,著者が参考にしたウェブサイトが紹介されてました。”u-boat.net*1”です。これはすごい。たしかにUボートの情報がすごい濃くて,興味津々,思わず読み入ってしまいました。