本日の立ち読み

晩年 (角川文庫クラシックス)「晩年(太宰治著)」なにをいまさらと言われそうなこの名著中の名著をふと立ち読み。所収中「葉*1」を冒頭から目で追いつつふと思ったのは、あ、これって”ヒロシです”だな、と思ったこと。たとえば、

死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目(しまめ)が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。

この箇所は、ですます調に直すと、簡単にヒロシになりそうです。哀愁あふれるBGMを流しつつ、・・・

ヒロシです。死のうと思っていました。今年の正月、よそから着物を一反、もらいました。お年玉としてです。着物の布地は、麻でした。ねずみ色の、こまかい、縞々の布地でした。これはきっと、夏に着る着物だろうと思いました。夏まで生きていようと思いました。

ここでは、死というタブーに近い重々しいテーマを扱っていますのでテレビ向きではありませんが、それでもなおかつ自虐的な笑いの枠内に収まることができています。だから顔をぴくぴくひきつらせつつも、腹のそこからこみあげてくる笑いを抑えることができなくなります人もおられるのではないかと思います。
むかしの才人も、こういう、自虐的なネタで、読者に、微妙な笑いを誘っておられた、ということに接すると、時代を超えて、変質しない、散文芸というものの芯にちょっと触れられたような気がします。
もちろん、ヒロシさんの意図とは関係のない話しではありますが。