切り捌く前の

牛肉の塊10kg位頂戴す。
でかいよ。
拙賄所の俎板では,とても間に合わないくらい大きいのです。こんなんどうしようか,としばらく途方にくれてたが,とにかく包丁で切っていこう,そうでなくては,はなしが始まらない。
胴体のどこの箇所なのかは知らないが,ぎとぎとした真っ白い脂身と,なんとか食べられそうな赤身が幾層にもなって重なっているようなので,まず,白身と赤身のすきまに包丁を入れて,脂身の箇所だけをべりべりと剥していく。剥し終えた脂身は,いらないので,捨ててしまう。こんな濃い脂身はラードにしかなりません。まともに食べたら胸焼けしちゃいます。
こうして脂身のみをべりべり剥して作業すること20分くらい。まあ,とにかく脂身があることあること。おんもで運動させないで,飼料ばっかりひたすら咀嚼させて,肥育させた牛肉とは,斯様なものなのかと,別の意味で感心する。こうして,剥ぎ取った脂身は,全体で7割くらいになるだろうか。もう,とにかくぎとぎとした脂身ばっかりで,食べられそうな赤身箇所が,すごい少ないのです。そしてその赤身も,包丁でざっくり切って,その断面を見ると,田舎の夜空の星のようなおびただしい数の,真っ白い脂肪が一面に散らばっているです。ようするに,”霜降り肉”ですな。しかし,いやいや,その霜降り肉に辿り着くまでに,捨てに捨てた脂身の量といったら,なんか,資源の無駄遣いみたいな感も無きにしも非ずでございます。
こうして,なんとか抽出せる霜降り肉をもって,シャリアピンステーキを焼いて今宵の晩餐となす。みじん切りにしたたまねぎを手のひらでわしづかみにして,件の霜降り肉の断面にぎゅっぎゅっと押し付けて,たまねぎの汁をまんべんなく染み込ませる。そしてしばらく寝かせて,たまねぎ汁がよくしみわたったところを見計らって,そのままフライパンでじゅうじゅう焼く。溶かしたバターをフライパンに敷くのがオリジナルなのだが,バター臭が嫌いなので,オリーブオイルで代用とする。焼き加減はお好みで。やはりミディアムが自分の好みのようです。そして焼きあがったら,塩胡椒で味付けして,熱いうちに召し上がります。
はっきりいって,激烈,旨いです。赤身の中にほどよくブレンドされた脂身による妙だと思います。
しかし,こうして切り捌いていて,肝心の霜降り肉にたどり着くまでに,おびただしく捨てられた脂身の量と,少ない赤身の量のことを思うと,単価の高いステーキ用肉は,どうして高いのか,その理由が理解できるような気がします。
ただ,この切りわけ作業で捨ててきた脂身も,その断面をつぶさに見ていると,あちらこちらに赤身が散らばっているのですよね。だから細かく薄くスライスして,しょうゆで煮込んで,ご飯の上にのせて食べれば,かなり美味しそうです。あ,それって,○野家の牛丼なのでは。たしか,本来なら捨てる箇所の脂身だらけの牛肉を,米国から,廉く仕入れてきて,牛丼用としているといわれてますよね。
それにしても,自分で切り捌いていると,おもしろいものです。食べたくない箇所も容赦なく捨てることも出来て,ある意味ヘルシーでもあります。
なんか,このごろの自分は,どうもつむじまがりモードです。やはり,旨いものはすなおに,旨い,と言うほうが大事なので,次回からはすなおに書きます,なんとか笑って許してくださいませ。敬白。