本日の読書

司馬遼太郎が考えたこと〈5〉エッセイ1970.2~1972.4 (新潮文庫)司馬遼太郎が考えたこと (5)」

戦後のある時期,いまから10年程前に,日本には有史以来,弥生式以来の大変化が訪れたように思う。それは何かというと飢えからの解放である。・・・われわれは以前の生活があまりにも長かったので,まだ新しい状況に対応する十分な能力を持っていない。生きる目的をどこに求めたらいいか,わからなくなっている。腹いっぱいになったために,われわれは逆に悲惨な課題を背負ってしまったのである。・・・とりあえず自殺者がふえるだろう。飢餓との闘いがあったからこそ,人間は生き続けてきた。この条件がなくなったいま,生きることへの執着はかなり稀薄になっていくだろう。1970年代のあいだにこの課題をわれわれは切り抜けられるだろうか。・・・(244頁「無題《アンケート回答》」1971年7月)

21世紀を迎えし現在,どうなんでしょ,暫し沈思黙考せり。